02.塚本邦雄さん訪問記

短歌朝日編集長・越村隆二

八月七日は塚本邦雄さんの誕生日です。塚本さんが八十二歳になるこの日、大阪府東大阪市南鴻池町二丁目のご自宅におじゃましました。訪問前、次のような会話が編集部でありました。
私「誕生日だから手ぶらというわけにもいかないし、先生は何がお好きなんだろう」
編集部員「甘いものですかね。でも、塚本さんの”いま”は、誰も分からないんですよ」
私「どんな具合なんだろう。お会いできるのかな?」
編集部員「ご子息の靑史さんが窓口です」
塚本宅は、遠くに生駒山が望める住宅地にありました。私の右手には、いろいろ考えた挙句の「メロン」がぶら下げられていました。
一階は靑史さんの仕事場と居間で、ここで撮影の打ち合わせをしましたが、あいさつがすむかすまないかのうちに、靑史さんが
「おやじを呼びますよ。二階にいますから」
これには私もびっくりで、
「いいんですか。先生は本当に大丈夫なんですか。ご無理はなさらないで下さいよ」
しばらくして、塚本さんが、靑史さんの奥さまの肩を借りながら、階段を降りてきました。廊下のところで、
私「先生、お元気そうですね」
塚本「撮影かね。君、ありがとう。頼むよ」
塚本さんの、特徴のあるあの広い額はつやつやとしていました。口調もしっかりし、体に張りがありました。
間もなく塚本さんは二階に戻りましたが、私が驚かされたのは、今年七月七日に行われた東京歌会の評を見せられた時です。いっぱい書き込みがあるうえ、ワープロ特有の書体で打たれた「鸛」をきちんと書き直しているなど、精神の集中が少しも鈍っていないのでした。
「塚本先生は健在だ」
帰りのタクシーの中で、私はそうつぶやいていました。
(短歌朝日2002年11・12月号掲載)