今週の本棚・新刊:『ほろにが菜時記』=塚本邦雄・著

(ウェッジ選書・1470円)

 「ほろにが菜時記」とはつまり、ほろにがい季節の味覚をテーマとした小随筆集である。新年の「屠蘇(とそ)」「小豆」にはじまり、春の「つくし」「蜆(しじみ)」、夏の「茗荷(みょうが)」「鮎(あゆ)」、秋の「菊」「無花果(いちじく)」、冬の「沢庵(たくあん)」「味噌(みそ)」、さらに雑(ぞう)の「エスプレッソ」などなど。学名、故事来歴から微妙な味覚、調理に至るまで、独自の美意識に貫かれたほろ苦い文章が冴(さ)える。「蓼(たで)食う虫、これがまた多士済々で、蓼小夜蛾(たでこやが)・蓼蚜虫(たでありまき)等数種いて、栽培蓼の大敵である。人間がスパイスに使う植物を常食にするとは、なかなか粋な虫、そのせいか、諺(ことわざ)にも、必ずしも軽侮の気持はこめられていない」(「蓼」)。古典和歌や自身の短歌作品や、詩歌の紹介も豊かで楽しい。著者は、博識で知られた前衛歌人である。(ゆ)

毎日新聞 2010年7月18日 東京朝刊