歌人塚本邦雄の食の世界を味わう

歌人塚本邦雄の食の世界を味わう

後藤奈岐
2013年9月13日

20141201_01
写真:『ほろにが菜時記』(ウェッジ)、塚本邦雄(著)、1,470円(税込み)『ほろにが菜時記』(ウェッジ)、塚本邦雄(著)、1,470円(税込み)
ほろにが菜時記 (ウェッジ選書)

20141201_02
写真:『異国美味帖』(幻戯書房)、塚本邦雄(著)、2,520円(税込み)『異国美味帖』(幻戯書房)、塚本邦雄(著)、2,520円(税込み)
異国美味帖

アスパラガスの林に響く輕音樂、皿はグラスに重なり睡る(『水葬物語』より)

時おり、冗談ともいえない冗談を肴にグラスを傾け合う間柄の人文書の担当者が、料理書の売り場でいささか熱のこもった説明をしている。歌集の棚から食エッセイの棚にやってきて『異国美味帖』を手に塚本邦雄について話しているのだ。なんだ、君もだったのか。

塚本邦雄への愛着を声高に語ることができない。署名入りの著書を何冊も持っていても、好きだなどと言うことすらおこがましく思える。簡単に消化できない句またぎの言葉。よく知っているはずの植物に充てられたいかめしい漢字。定型詩や散文に散見する異国の名前。そうした言葉の強度に圧倒されて、とても自分の手には負えないと思うのだ。おそらく同僚もそうなのだろう。お互いの塚本文学に対する嗜好を知らなくとも仕方あるまい。

彼の作品には古今東西の人名のほか、植物の名が多く登場する。反写実の歌人にとって、そうした名前が客観的現実の花や果実をあらわすための道具でないことは言うまでもない。しかし、名前や名前を付けられたものたちの来歴について塚本が抱いた関心は強く、特に植物については「学名から始まって分類学にまで」首を突っ込んだそうだ(塚本青史氏による『異国美味帖』の跋文から)。

そうした知識と体験をもとに、食材の来歴や調理、そしてそれらにまつわる詩歌について書かれたのが、1985年から2000年まで『美味春秋』に連載された「ほろにが菜時記」である。そのうち、四季の食材についての取り上げたものを編纂し単行本化したものが『ほろにが菜時記』(ウェッジ刊)、西欧の土地と食にまつわる随筆をまとめたものが『異国美味帖』だ。

たとえば、『異国美味帖』の「アスパラガス」についてのページをめくってみよう。

「酒池肉林の、あのローマの大宴会で前菜にはアスパラガスが必ず出ていたという記録がある」という一文に始まる随筆は、アスパラガスの日本への渡来から、明治大正の小説に登場した「和蘭雉隠(オランダきじかくし)」という和名、バスク地方のアスパラガス畑、調理・保存法まで、この野菜にまつわる様々な横顔を私たちに教えてくれる。わずか数ページの中にそれぞれの食材の世界が流麗な筆致で、しかも濃密に描き出されているのだ。

2冊あわせて100近くの食材。通読すれば、それらについてかなりの知識を得られるだろう。薀蓄(うんちく)を傾けることもできるかもしれない。私の場合は、著者の博識にただただ畏れ入ってしまった。

まだ書籍化されていない数十編も、いつかは読んでみたい。

『ほろにが菜時記』(ウェッジ)
塚本邦雄(著)
1,470円(税込み)

『異国美味帖』(幻戯書房)
塚本邦雄(著)
2,520円(税込み)
http://www.asahi.com/