没後初、塚本邦雄展

詩歌の森へ

没後初、塚本邦雄展=酒井佐忠

塚本邦雄の偉大な歌業を再現する「塚本邦雄展−現代短歌の開拓者」が日本現代詩歌文学館(岩手県北上市)で開催中。近代写実主義から短歌を解放し、古今東西の博識を生かし、短歌の芸術性と美学を求めた歌人の全貌を明らかにする貴重な展覧。2009年、作家で長男の塚本青史氏から蔵書や遺品が同館に一括寄贈され、没後初の大がかりな企画展が実現した。

<日本脱出したし 皇帝ペンギンも皇帝ペンギン飼育係りも><馬を洗はば馬のたましひ冱ゆるまで人恋はば人あやむるこころ><突風に生卵割れ、かつてかく撃ちぬかれたる兵士の眼(まなこ)>。代表歌にこめられた歌人の意図や方法を、いま現在を生き、文学に携わる者として改めて鑑賞したい。直筆の書や色紙、少年期の畏友・杉原一司や三島由紀夫、中井英夫らとの書簡、推敲の跡も生々しい歌稿ノート、歌集『水葬物語』など多くの著書、さらに同行者、家族の写真がコーナーに分け展示されている。

「現実社会が瞬間に変質し、新たな世界が生(うま)れでる予兆を、直感によつて言葉に書きしるす、その、それ自体幻想的な行為をあへてする自覚なしに、歌人の営為は存在しない」(「短歌考幻学」)。こんな言葉が胸に響く。6月5日まで。5月21日の詩歌文学館賞贈賞式の中で、塚本青史氏の講演「わが父塚本邦雄」がある。なお、短歌の原文は旧字体によっている。(文芸ジャーナリスト)

毎日新聞2016年4月18日 東京朝刊